建売市場を大分析!住宅産業研究所月刊TACT編集長に聞いた、競合と差をつけるポイント
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縮小する住宅市場で「建売」だけは着工戸数が伸びている
新規着工数が減少している住宅市場。しかし、その中で「建売住宅」だけは着工戸数を伸ばしているのをご存じでしょうか。
なぜ建売住宅だけが着工戸数を伸ばしているのか。
土地条件以外で売れる建売のトレンドはあるものなのか?
住宅に関するさまざまなテーマを研究している住宅業界誌「月刊TACT」編集長の布施哲朗さんと、LDPで営業事業部のマネージャーを務める田村が、建売住宅のこれまでとこれからを解説します。
国交省の「住宅着工統計」によれば、2002年からの20年間の住宅着工数は減り続けています。注文住宅にあたる「持家」は約375千戸から約275千戸まで減り、マンションもリーマンショック前後で300千戸から100千戸程度まで一気に減ってしまいました。
しかし、こうした住宅着工数が減少している背景には、景気変動の一時的な要因だけではなく、人口減少や国の政策など慢性的な理由も関係していると、布施さんは話します。
「まず大前提として、人口・世帯数の減少に伴って新しく建つ住宅の数は減りますよね。さらに、ここ10年ほど国が新築住宅よりもすでにある中古住宅のストックを活かそうという方向に力を入れ始めているので、新築住宅以外の選択肢も広がり始めたことも事実です。2020年5月以降のウッドショックにより資材が高騰して、新築住宅の販売価格も上がっています。最近は食料品や生活雑貨、電気代などの生活コストも上がっているため、生涯で最も高い買い物である「住宅」を購入する気分が生まれにくくなる傾向はさらに続くでしょう。」
しかし、住宅市場全体が縮小しているにもかかわらず、着工戸数が唯一安定しているのが「建売住宅」です。同じ新築の戸建住宅である注文住宅(持家)と比較しても、建売の比率が徐々に伸びていることがわかります。
「10年前、建売住宅は戸建住宅全体の30%以下でした。しかし、2022年上半期には36.2%まで伸びています。新築住宅市場が縮小しているにもかかわらず、100~200千戸の間で安定しながら、その割合をじわじわと増やしているのです」
建売住宅が安定した棟数を維持できているワケ
住宅市場が縮小する中で、なぜ建売住宅の着工戸数だけが堅調なのでしょうか。その理由の一つに、コロナ禍特有の事情があったのではないかと、布施さんは分析します。
「建売はすでに完成したものを売るので、物件の価格や立地、間取り、仕様などの情報をホームページ上に掲載できます。そのため、モデルハウス見学がしにくかったコロナ禍でも比較検討しやすかったのではないかと思います。そして、建売住宅は購入から入居までの期間が短く済みます。注文住宅の場合は、まず住宅会社の比較検討、そこから間取り・仕様の決定、そして着工から完成、引き渡しまで。このようなフローを踏まえると、半年から1年程度の時間がかかるのが一般的。一方、建売住宅はすでに建っているものを買うのですぐに住むことができます。そのため、緊急事態宣言下で、賃貸マンション・アパートなどの手狭な集合住宅から戸建てに引越したいと思ったときに、すぐに引っ越せる建売住宅の需要が増えたのも納得です。建売住宅の利便性に気付いた人たちが増えたことで、今後もこうした傾向はしばらく続くものと思われます」
さらに、コロナ禍という特殊な事情に限らず、消費者側のニーズも変化しつつあると、布施さんは指摘します。
「注文住宅の最大のメリットは自由設計なのですが、そうした自由設計への憧れやこだわりを持っている人が30~40年前よりも少なくなっているんじゃないかなと思うんです。家を建てたことがない人が『どんな家にしたいですか?』と聞かれてもどんな家を建てたいのかといったイメージを持っていない。広さと部屋数、最低限の機能があったら十分で、カスタムオーダーくらいで良いという人が増えている感覚はあります」
また、利益幅を調整しやすく、事業者側にメリットがあることも、建売住宅のポイントと言えそうです。
「注文住宅の場合は、建材や住宅設備の仕入れ値や職人の人工代を先に試算して架空の積算で売価を決めます。そのため、契約後に資材価格が上がったり、何らかの事情で工期が延びたりした場合でも、契約時に決めた価格しか受け取れません。一方で、建売住宅は仕入れた土地の価格に実際にかかる原材料費や経費、利益を積み上げて販売価格を決定できるので、よほど長い間売れ残らない限りは利益幅が大きくブレることがありません。リスクヘッジはもちろん、場合によっては増益を目指しやすいんです」
「情報量」と「暮らしをイメージできる提案」で差をつける
これから需要がますます増していくと思われる建売住宅。今後さらにニーズに合ったものを提供していくためには、これから建売を戦略的に取り組む住宅事業者は、何をすべきものなのでしょうか。布施さんと田村の二人は、住宅そのものよりも情報の“見せ方”を重視しているようです。
布施:プロモーションや情報の見せ方が重要な気がしています。先ほどお話したように、たくさんの住宅が登録されたポータルサイトに条件を入力して、比較検討する方法が、住宅選びの主流になっています。
とくに、これから家を購入する「Z世代」に括られる方々は、ネットでの検索に長けている分、パッと見て情報の量と質が充実していると思えるかどうかが“第一審査”を通過する条件になっていくのではないかと。
田村: ZOZOTOWNでTシャツを買うときにも、Tシャツの写真を1枚だけ載せるケース、商品を着用しているモデルさんの写真や身長、それを着ているシーンもあわせて掲載しているケースでは、後者のほうが信頼できますもんね。すでに建っている建売ならビジュアルもありますし、部屋数や間取りなどの情報を表現しやすい。
布施:ZOZOTOWNのたとえはすごくいいですね。同じような商品をいろいろな店が出しているにもかかわらず、情報や見せ方で差別化できる好例ですから。
それを住宅に置き換えるなら、家具を借りてきてコーディネートするホームステージングをしているかどうかによっても印象が大きく変わりそうです。
田村:たしかに、その家での暮らしがイメージできるような仕掛けは重要ですよね。
建売の一番強いプロモーションは、建売の物件を実際に見る“体験”ができることだと思うので、ホームステージング以外にもいろいろとできることはありそうです。たとえば、住宅のコンセプトに紐づけたアウトドアイベントや人気のカフェや飲食店を呼んだマルシェ風イベントを開催すれば、ターゲットに合わせた見せ方ができる“広告塔”になります。
大手ハウスメーカーさんのような資金力がなかったり、やや不便な立地条件だったりしても、デザインや生活のイメージシーンをプラスすることで質を高めていける可能性がありますよね。
布施:住宅自体にコンセプトがあると、見せ方の切り口もいろいろと考えられそうです。
田村:しかも、お客様がコンセプトを気に入ってくれて「この家と同じものをください」と言ってくれたら設計のコストが下げられますよね。すでにある図面を同じくらいの大きさの土地に当てはめればいいわけですから、工務店さんも建てやすくなる。
コンセプトがわかりやすい住宅を建売にすれば、即売会もできるし、フィーリングが合う人たちを集めるためのコンテンツにもなる。これが僕たちの規格住宅の考え方なんですが、こうしたことができれば、建売自体の幅がめちゃくちゃ広くなると思います。
建売販売に参入するなら「立地」と「提案」を大切に
最近では、不動産仲介会社が差別化を図るために、自社で建売物件を仕込んで販売していく流れも多くなってきているといいます。しかし、どんな建売でも売れるとは限りません。これから建売販売事業に本格参入する事業者はどんなポイントを押さえればいいのでしょうか。
布施:基本的には「立地」「価格」「間取り」「広さ」の4つだと思います。家を買うタイミングが、子どもの就学前から中学校卒業までの間に重なるケースでは、学区が強く意識されるため、立地はとくに重要です。子どもの学区が変わらない立地を選んだうえで、価格や間取り、広さを比較検討する方が多いのではないでしょうか。
田村:そうですね。建売住宅は、土地をセットで販売するところに特徴があります。多くの人が住みたいと思えるような土地を買い上げられるかどうかが、事業成功の鍵のひとつといえますよね。
逆に言うと、土地の仕入れに失敗すると、在庫をたくさん抱えてしまい、キャッシュフローが回らなくなって経営を圧迫するリスクもあります。利便性の高い土地を手に入れられて、値付けに失敗しなければ、売れ残ることはほとんどないため、土地の仕入れに関する知識やノウハウに長けた不動産仲介会社の方は、強みを発揮しやすいかもしれません。
布施:ただ、価格や立地などの条件だけで物件を選ぶお客様だけではないんですよね。数字では比較できない、デザインの好みや暮らし方との親和性で物件を選ぶお客様もいます。
不動産仲介業者の方は、立地の価値や価格の優位性といった条件面を説明するのはお得意かと思うのですが、暮らしをイメージできるようなトークはこれまで求められてこなかったかもしれません。
たとえば、お客様に「子供たちを庭で遊ばせられるような家を探してて」と言われたら、「この家は敷地に対して建物を狭く建てているので、お庭のスペースも確保できますよ」と言うとか。建物のちょっとした個性をお客様のニーズに沿わせられるかどうかが重要ですよね。
田村:見方を変えれば、たとえ不利な立地条件でも、建物自体に個性や魅力があれば、そのデメリットをカバーできるとも言えますよね。単に住宅をただ並べて販売するのか、強い訴求力のある建売商品を並べて会社のカラーを表現するのかによっても方向性が変わってくるので、そのあたりの経営戦略を一度考えてみるといいと思います。
その人の心が動く瞬間をつくれるかどうかといったエンタメ性は、住宅においても問われてきますよね。僕は36歳のミレニアル世代ですけど、同じ世代やZ世代の人たちは、SNSやWebを駆使するいわゆるデジタルネイティブ。瞬間的に情報をキャッチして判断します。その人たちに、一枚の画像や、実際に建てられた物件を使って、どんな表現・どんな訴求をして、Web上で発信するかがとても重要です。
たかが建売、されど建売。土地条件さえよければ良いと思わず、その物件をどう広告塔として使い倒すべきか。戦略的に動けるといいなと改めて思います。
今後は、この記事をご覧になる皆様とも、一緒に考えていけたら嬉しいです。
本日はありがとうございました!
住宅産業研究所 TACT編集部 編集長 布施哲郎
SV / General Manager 田村友一