住宅業界はテクノロジーをどう取り入れる?リフォーム産業フェア2018トークレポート
introduction
リフォーム産業フェア2018の住まい×テクノロジーブースで、BETSUDAI Inc.TOKYO CEO・林哲平が司会を務めたトークセッション「究極の効率化時代へ!住まいTECで起きる真実に迫る」。住まい・暮らしは、テクノロジーでどう変わっていくのか?住宅事業とテクノロジーの関係を4つの切り口で紐解いた必聴トークをレポートします。
住まい・暮らしは、テクノロジーでどう変わっていくのか
林
みなさん、こんにちは。今回、司会を務めるBETSUDAI Inc.TOKYO の林です。まずは軽くそれぞれの自己紹介から始めますね。
BETSUDAI Inc.TOKYOは建築フランチャイズネットワークを展開しており、住宅商品企画やPR マーケティングを一手に引き受けています。ファッションブランドやインテリアブランド等とジョイントしながら、今までの住宅業界の枠にとらわれないような、規格住宅を作っています。
小村
石川県金沢市にある株式会社クラスコの小村と申します。私たちは創業55年の老舗会社で、地元密着の賃貸管理の不動産会社から始まり、多角化して全部で8社の経営をしています。
中村
ツクルバという、その名の通り「場を作る」会社をやっています。2011年に創業したベンチャー企業で、会社のステージによってオフィスをアップデートしていくコワーキングスペース事業と、カウカモという不動産のリノベーション事業に、デザインスタジオをやっています。建築とテクノロジーと不動産を掛け合わせている会社だと思っています。
テクノロジーで“無駄”を解決し、仕事をなめらかにする
林
では早速ですが、事業内でのテクノロジーの活用について。そもそもテクノロジーの概念が人によって違うので、ご自身のテクノロジーの概念も踏まえつつお話をお聞きしたいと思います。
小村
私たちは無駄をテクノロジーで解決しようという考え方で、開発しているサービスはほとんどスマートフォンで活用できるような仕組みにしています。
今やスマートフォンは一人一台必ず持っているキーデバイスですし、説明書を読まなくてもいいくらい、使いやすいですよね。テクノロジーの導入はなかなかハードルが高いですが、意外と現場にすんなりと浸透しています。
林
どの分野の事業領域においてのテクノロジーですか?
小村
今やっているのは賃貸管理とリフォームの施工管理ですね。あと、社内教育は95%ぐらいeラーニング化しています。対社内で使っているものも多く、例えば外壁の業者さんが画面に従って入力していくと自動的に提案書が出来上がるシステムなどを作っています。
林
それを使うことによって、営業マンに頼らない仕組みができるということでしょうか。
小村
そうですね。提案書や報告書を作るのに時間をかけがちですが、そもそもお客様に価値ある提案をするのが仕事なので、それ以外の部分はテクノロジーでどんどん効率化していこうと思っています。
今、採用が難しいので、一人当たりの営業利益を上げないと給料を上げていくこともできないということを理解してもらい、もっと一人当たりの生産性が上がる仕事にシフトしましょう、と社内で言っています。社内からも「これ無駄なので開発していいですか」という声が上がってくるほどです。
林
その声は、社員にも生産性に対する意識が浸透し始めているという、嬉しい証拠ですね。中村さんはいかがでしょうか?
中村
僕が思うにテクノロジーは「なめらかさを上げる技術」だと思っています。これまでアナログで手順が多かったものが、テクノロジーでなめらかに、スムーズに進むようになる。また、これまでとれてなかった情報をちゃんとストックできることでもあると思っています。この二つがちゃんと両輪で回っていくと循環が生まれてくる。
例えば、リノベーションに興味があるお客さんのデータって、これまでしっかりストックできていなかった。その人の年収がいくらで、どの辺りに住んでいて、どんな住宅を欲しているのか。これまで営業マンの勘でやっていた部分が、データベースとしてストックしていくことができます。マーケットデータによって業務が効率化され、更にマーケットデータのブラッシュアップができると良い状態なんだと思います。
林
すごく分かりやすいですね。シームレス化と記録していく作業を掛け合わせたことによって、企業価値がどんどんスピードアップしていきますね。
ビジネスとテクノロジー、デザインの全てが噛み合っているかどうか
林
次に、事業内でテクノロジーが生まれる背景とは?に進みたいと思います。自社で展開しているようなテクノロジーが生まれた背景を教えてください。
中村
クラスコさんは社内にエンジニアがいらっしゃいますよね。起案はそこから上がってきますか?
小村
一番多いのは私からですね。しかし、社内でプレゼンイベントを始めてから、社員発信も出てくるようになりました。テクノロジーという概念でいうと、アプリケーションを作るだけではなくて、仕組み化、パッケージ化するということもテクノロジーだと思います。人を育てるのは時間がかかるので、そこを補うためにも仕組み化には力を入れています。
中村
僕たちも模索しながらやっています。最近経産省が報告を出した「デザイン経営」は「デザインは上流から入った方がいい」というデザイナーの方々が集まって編集していて、僕はすごく共感しています。ビジネスとテクノロジーとデザイン全てのギアが噛み合っているのかどうかはすごく重要だなと思っています。
林
確かに、デザインリテラシーがないと、いくらテクノロジーにアンテナが立っていたとしてもなかなか市場に受け入れられるのは難しいですよね。デザインだけに特化せずそれをテクノロジーに掛け合わせないといけないですね。
“現場”ありきの住宅業界で取り入れるテクノロジー
林
では、リフォームの現場、ないしは工務店さんの現場において活用できるテクノロジーの役割とはなんでしょうか。カウカモなんてまさにこれじゃないですか。
中村
そうですね。営業部隊は自社のみで、一部外の会社さんとやっているところもありますけれど、フルオープンじゃないんです。どちらかと言うと再販事業者の方と一緒にそのデータベースを活用して商品づくりを行っています。
林
事業者側に再販用の商品として提案できる価値を持たせて、売りやすくするわけですよね。そこのデータはどうやって取るんですか?
中村
カウカモのように、エンドユーザー向けのサービスを開発しているので、アプリでユーザーごとのマーケットデータをちゃんと記入してもらっているんです。そのデータを蓄積して、マーケティングデータを作っています。
林
その蓄積したデータ=ビッグデータを活用して提案をし、流行のデザインや立地、価格帯などを提案しながら、バランスをとっているということでしょうか?
中村
はい。例えばリノベーション再販事業者が、自分たちの直感で仕入れて、長年の勘でリノベーションも進めて仲介の人に紹介する物件があったとします。我々はそもそもどんな物件を仕入れたらいいのかという段階から入るので、リノベーション前の状態で購入希望の人がいたとしたら 、直感でリノベーションをしなくて済むんです。
事業者の方も無駄なコストをかける必要がないし、ユーザーも仕上げ前の状態で入るので自分の意見を織り交ぜながら進めることができ、お互いにとっても良いんですよね。
林
デジタルに対する事業者さんの捉え方は、どのタイミングでそのパラダイムシフトが起こるんでしょうか? 消費者から動かすほうが絶対に早いですが、小売市場と業者さんの市場は違ったりするじゃないですか。そこの部分の分岐点がいつなのかは気になりますよね。
中村
ITリテラシーの溝によって、導入できるかできないか決まってしまうのは切ないじゃないですか。枠組みを作っている我々としても、皆さんに使ってもらいたくて作っているはずなのに、意外とその壁を乗り越えられない。でもそれはデザインの力で解決できると思うんです。
スムーズな設定やなめらかなUIなど、自然に使ってたみたいなものにはデザインの力がきっとある。小村さんは展開しているツールを導入してもらうためにどんな方法を使っていますか?
小村
正直なところ、経営者向けに「人件費、売上、利益が上がります」とお伝えすることも多いです。ただ、積極的にテクノロジーを探している企業も増えてきています。グルメレビューサイトができて、美味しいお店が可視化されるようになりましたが、会社も同じくいい会社でないと選ばれなくなってきています。
林
テクノロジーを推し進めていっても、エモーショナルな部分を持ち合わせてないとオペレーションができない。誰が誰にどのようにオペレーションをするのかというのが大事な部分で、要はデジタルとアナログのクロスでしかないのでしょうね。
人を核に、テクノロジーを取り入れる
林
最後の議題は、テクノロジーの発展で今後の住宅業界はどうなるか?また我々はテクノロジーとどう向き合うべきか?ですね。そもそもテクノロジーという名称を変えたいですよね(笑)。住宅作るのもひとつのテクノロジーですし。
中村
リフォーム産業フェアでも、いろんなテクノロジー活用のサービスが出ています。どのように住宅業界がテクノロジーと融合していくかは、まだまだ模索している最中なんだろうなと思いました。
林
そうですね。近い将来「これ」によって、パラダイムシフトが起こるんじゃないかという点がお二人のなかにあったらお聞きしたいんです。
小村
音声スピーカーって使ってます? あれが便利なんですよ。 最近自宅をIoT化したんですけど、どんどん学習していって自分好みの住宅になっていく。おそらく住宅がビックデータの装置になると思うんです。
私たちは住宅を提供していますが、そのデータを持っている一番大きなプラットホームになれる可能性があると思っています。ほとんどのものの裏にAIがいる時代がくるんじゃないかなと。
中村
本当にそうですよね。ZOZOSUITと同じ感覚です。スーツが、ホームになる。身体のスケールと同じように、全ての家の中でのふるまいをセンシングできるようになるでしょう。
林
具体的には、家の中で取れるデータとはどんなものがありますか?
中村
同じ家族でも家での過ごし方は家族一人ひとり違います。どういうものを買ってきているのか、どんなタイミングで照明をつけるのか。もうちょっとあるかなと思っているのは、コミュニティでの過ごし方です。
実はKOU(コウ)というコミュニティの新サービスを開発中なのですが、簡単に言うとコミュニティで使える地域仮装通貨みたいなものを自分たちで発行して使えるものです。地域通貨としてアナログでやっていたものがなめらかになる。感謝経済や贈与経済といった、オルタナティブな資本主義をこの中で展開していこうと思っています。地域中でのコミュニケーションも、まだ取れていないけれど必要になる情報の一つでしょうね。
林
エンタメ性もあるし、商店街の方々が若い人たちとコミュニケーションをとりながら地方を盛り上げていくようなビジョンは今少し見えました。では住宅の現場ではどうなのかということは各々の課題ですね。僕は特にDIYのように自分が体を動かすアナログ要素のものは、テクノロジーとの融合が絶対必要不可欠だと感じました。
今回司会をして感じましたが、もっとテクノロジーの話を翻訳して欲しいです(笑)お二人の話を聞いていると、人間が核にあるのは絶対で、周りをスムーズにする部分でテクノロジーを活用するのは絶対にいいことじゃないですか。ある意味、正義といえますよね。
小村
もっと周りに言っていかないとですね。実はいまやっていることの失敗した方法も成功した方法も、全て可視化していこうとしています。しかも、ホームページに全部載せていこうと。実際働いているスタッフも、見られている意識があると頑張るんですよね。
林
芸能人が年を重ねても綺麗でいる理由ですよね。ずっと見られているとなかなか老けない。テクノロジーがもっと市場に落とし込まれて、みんなが慣れ親しめるようになればいいなと思いつつ、今日の会を終わります。ありがとうございました!
テクノロジーという単語は巷にあふれていますが、それが何なのか、私たちにどう影響していくのかを改めて考えるきっかけとなった本トークセッション。
住宅業界の変化は、私たちが暮らす家の変化へと繋がっていきます。同じくリフォーム産業フェアにて先日開催されたトークセッション「住宅業界の古い風習に物申す」に引き続き、今回もこれからの住宅業界を考えるにあたっての大事なエッセンスが詰まった時間になりました。
暮らしのテクノロジーとどう付き合っていくのかで、私たちの暮らしも変わっていくはず。みなさんも一度、未来の暮らしについて考えてみてはいかがでしょうか。
この記事に関するサービス
LIFE LABEL
家を、暮らしをもっとエンターテインメントに。
ライフスタイルメディア「LIFE LABEL magazine」を中心に、日々の暮らしを楽しむための情報発信や、新しいライフスタイルの楽しみ方を、住宅デザインとあわせて提案する住宅エンターテインメントブランドです。
Dolive
シミュレーションからはじめる家づくり。
家づくりを試せるシミュレーションアプリと、アイデア・ヒントが集まるメディアを中心に、ユーザー発想で住みたい家やライフスタイルを考えていくためのシミュレーションプラットフォーム。
さまざまなブランドやクリエイターの発想から生まれた住宅デザインも提案しています。
スピーカー紹介
BETSUDAI Inc. TOKYO CEO 林 哲平
BETSUDAI Inc. TOKYO CEO 林 哲平
株式会社クラスコ 代表取締役社長 小村 典弘
株式会社クラスコ 代表取締役社長 小村 典弘
tsukuruba inc. 代表取締役 CCO 中村 真広
tsukuruba inc. 代表取締役 CCO 中村 真広