リノベーション市場の未来は「消費者の視点」がカギに。|キーパーソン特別セミナー2018
introduction
2018年9月19日にマウントレーニアホール渋谷で開催された、住宅ビジネスの風雲児8名による「キーパーソン特別セミナー」。今回のセミナーは、7月に開催された「リフォーム産業フェア2018」のトークセッション「住宅業界の古い風習に物申す」の本編にあたります。
本記事で紹介するのは「リノベーション市場の未来」をテーマにしたトークセッション。BETSUDAI Inc. TOKYO CEOの林哲平が「未完成住宅」を手がける9株式会社CEOの久田カズオ氏、『SUUMOリフォーム』編集長の福澤佳恵氏とともに、リノベーション市場が今抱えている課題や解決法について熱く議論しました。リノベーション市場の未来、3人はどう予想するのでしょうか?
今のリノベーション市場、何が問題?
福田
最初のテーマは「今のリノベーション市場、問題ありますよね?」です。みなさんはリノベーション市場のどのような点が問題だと感じていますか?
久田
今は9割の方がリノベーションという言葉を知っています。東京では新築マンションとリノベーションがWebで検索される回数はほぼ同じになりました。10年前だったらリノベーションという言葉を知っている人はたぶん1割程度。この10年でずいぶん業界が変わって、伸びてきました。
しかし、相変わらず住宅業界のトップ10にリノベーションの会社は入っていません。まだまだスケールできていないというのが現状です。
林
リノベーションは手法でしかないんです。よく「リノベーション業界ってなんでダメなの?」と聞かれますが、そもそも業界ですらない。なぜリノベーションをするのかというと、中古物件を買うからですよね。でも、地方では中古があるとほとんどが壊されてしまって、そもそも数が少ないのが現状です。中古の流通が少ない地方では、消費者が家を買うときの選択肢としてリノベーションがなかなか出てきません。まずはそれを変えないといけないと思います。
久田
5年ほど前までは住宅の流通量は新築9割、中古1割で、長らく問題があると言われてきました。今は東京では、ようやく新築と中古の割合がほぼ一緒になりました。こうした流れは今後地方にも広がっていくのではと思います。
福澤
消費者向けの情報誌を制作する中で、家の購入を考えている方とお話する機会がよくあります。みなさんリノベーションに興味をお持ちなのですが、最終的に踏み出せない人が多いという印象です。よくあるのが、まず物件を買ってしまい、空間にかける予算が足りなくなってしまってリノベーションを諦めるケース。物件と空間をセットで考えるということを、もっと啓蒙していく必要性を感じています。
これからの住宅に求められるのは「プロダクト化」と「自分らしさ」
福田
では、こうした現状を変えていくために、どのような取り組みが必要だと思いますか?
林
10年くらいリノベーションの歴史があるのになかなか広がらないというのは、単純に消費者インサイトが外れているのではと思います。僕自身ずっと供給側に問題があると考えてきたのですが、あるときから消費者の家に対する期待値が高すぎるんじゃないかと思うようになりました。今までは住宅供給側が消費者に向けて訴求していたレベルが高すぎたんじゃないかなと。消費者側の購買概念、家を買う視点を変えていかなければ、業界の流れは変わっていかないと思います。
それと、日本の街並みってもう使い尽くされていますよね。東京はもとより、地方都市でさえも、どこも同じような建物ばかりでおしゃれじゃない。でも、例えば僕の実家は佐賀の唐津市という田舎なのですが、昔ながらの風景がまだ残っているんです。何が言いたいかというと、住宅供給側は家という単位ではなく、街をリノベーションするという視点を持つ必要があるのかなと思っています。家も街の一部ですから。
久田
「古い建物と新しい建物、どちらに住みたい?」と聞くと、「新しい建物」と答える人が多いんです。けれど、「画一的な住まいと自分らしい住まい、どちらに住みたい?」と聞くと、圧倒的に後者のほうが多い。
自分らしい住まいをつくる手段の1つがリノベーションなのですが、リノベーション市場が抱えている問題点として、すべてオーダーメイドで提供しようとしている点があります。それだと、手間も費用もかかります。消費者の要望を叶えるいい手法だと思うけれど、思った以上に広がっていかない理由はそこかなと。例えば、洋服だったらわざわざオーダーメイドしなくても、市販のジャケット1枚着るだけで自分らしいコーディネートができます。家も、もっと小さなことで自分らしい空間にできるはずなんです。
それから、新築には住宅展示場がありますよね。リノベーションにはそれがありません。家を買いたいときにとりあえずリノベーションした家を気軽に見ることができれば、市場はもっと伸びる可能性があると思います。
林
フルオーダーメイドの住宅って、消費者自身がどうしたいかわからなくなってしまうケースもよくありますよね。かといって、まったく同じ商品が横並びになっていると嫌がられてしまうので、少しだけ自分らしさを出せるオプションがあると売りやすいと思います。これまでの住宅はプロダクト化されていなかったので、消費者が注文しやすいようにしてあげることが必要なのかなと。
リノベーションの概念が広まって良かったことは、住宅に対する消費者のデザインリテラシーが高まったこと。これはすごくいいことだと思います。ある程度プロダクト化してデザイン性を高めることで、今まで以上に消費者が買いやすい家をつくっていけるのではと思っています。ベツダイでも、今後はそういう家をたくさん出していく予定です。極端な話、うちのパンフレットを持って地元の工務店に行ってもらえば。
福澤
「何でもできます」というのは、実は住宅業界の難しいところでもありますね。消費者も、結局どこに頼めばいいかわからなくなってしまうケースが多いんです。これまでの「何でもできる」を脱却して、各社が何を強みとするのかを明確にして、わかりやすいコミュニケーションをしていくことが必要になると思います。
家の買い方をもっと自由に、新しくする
福田
では、リノベーション市場の今後はどうなっていくと思いますか?あるいは、みなさん自身はどう変えていきたいですか?
福澤
リノベーションの良いところは、一人ひとりの人生や暮らし方に合わせて家を変えられることです。しかし、現状ではそこまで踏み込まずにプランニングしているケースもあります。今は情報リテラシーが高い方しかリノベーションという選択肢に辿り着けていないので、より多くの方が「One to One」でオリジナリティを訴求した家を選べるようになるといいですね。
久田
僕たちは「未完成住宅」という商品を出しています。これは家づくりの最後の工程で購入した方がDIYするというものです。DIYというとハードルが高く感じるかもしれないですが、自分の服を自分で選ぶような感覚で住宅も選んでもらいたいと思っています。
今の住宅の多くは何かしらのデザインが施され、商品特徴を出そうしているものが多いですが、これから求められていくのはシンプルな白いTシャツのような住宅だと思うんです。白いTシャツに何を組み合わせて、どのようにコーディネートするかは人それぞれ。それと同じように、住む人が自由にできる家をつくっていきたいです。
林
ベツダイでは「RE住む」というブランドを、今後、Webで住宅のシミュレーションができるサービスとしてリブランディングする予定です。消費者がシミュレーションを使って好みの家をつくり、それを実際に形にできるようなサービスを想定しています。
やはり業界を変えるために大事なことは、消費者の購買概念を変えることです。消費者のリテラシーが高くなっているので、家の買い方ももっと自由になっていいはず。家の買い方を変えていく、というのが僕たちの目指すところです。
業界の縦軸を壊して、消費者と向き合っていく
福田
最後に「これだけは物申したい」ということはありますか?
福澤
この業界に入る前、私は今築40年のマンションで育ったのですが、業界に入って家の自由度に驚きました。。家は、過去の自分の経験が創造力のマックスになりうるものです。そういった点からも、もっと多くの人が自由な家に触れる機会が増えて、自由に選べるようになるのが理想だなと思います。
久田
これからはもっと長く使っていける家をつくらないといけません。なぜ、日本の家が30年で壊されてきたのか。その答えは、突き詰めるとその家が好きじゃないからだと思うんです。では、長く愛されていく家とは? それは、自分らしい家です。リノベーションは自分らしい家をつくる一つの手段。僕たち自身も、本当に愛される家をつくっていきたいと思っています。
林
リノベーション、リフォーム、DIY、新築。住宅業界にあるこうした縦軸を壊していきたいですね。一番大切なのは、消費者がどんな家に住みたいと思っているのか、そのために僕たちは何をしていくべきなのかを考えること。今は縦軸で分断されている状態なので、それをまず壊して、垣根をなくしていきたいなと思います。
9株式会社
9(ナイン)株式会社は旧い建築物の再生「リノベーション」を、
不動産調査・設計デザインから運営までトータルで行うプロデュースするデザイン事務所。
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SUUMOリフォーム(株式会社リクルート住まいカンパニー )
一戸建て、マンションの住宅リフォーム会社を検索し、事例や相場情報を比較できるリフォーム情報サイト。
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リフォーム産業新聞
住宅リフォーム業界の今がわかるリフォームに特化した唯一の専門紙。
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「未完成住宅」を手がける9の久田さん、「SUUMOリフォーム」を手がけるリクルート住まいカンパニーの福澤さん、「RE住む」を手がけるBETSUDAI Inc.TOKYOの林。今後のリノベーションのあり方について語った3名のトークセッションでは、「消費者が本当に求めている家って何だろう?」と改めて考えるヒントがたくさんありました。続いて開催された登壇者8名によるパネルディスカッションでも、引き続きリノベーション市場に関するコメントがたくさん飛びかいました。「もっと知りたい!」という方は、近日公開予定の記事もぜひチェックしてみてください!
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ライフスタイルメディア「LIFE LABEL magazine」を中心に、日々の暮らしを楽しむための情報発信や、新しいライフスタイルの楽しみ方を、住宅デザインとあわせて提案する住宅エンターテインメントブランドです。
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シミュレーションからはじめる家づくり。
家づくりを試せるシミュレーションアプリと、アイデア・ヒントが集まるメディアを中心に、ユーザー発想で住みたい家やライフスタイルを考えていくためのシミュレーションプラットフォーム。
さまざまなブランドやクリエイターの発想から生まれた住宅デザインも提案しています。
スピーカー紹介
(9株式会社 CEO/クリエイティブディレクター) 久田 カズオ
(9株式会社 CEO/クリエイティブディレクター) 久田 カズオ
(株式会社リクルート住まいカンパニー SUUMOリフォーム編集長) 福澤 佳恵
(株式会社リクルート住まいカンパニー SUUMOリフォーム編集長) 福澤 佳恵
(BETSUDAI Inc.TOKYO CEO) 林 哲平
(BETSUDAI Inc.TOKYO CEO) 林 哲平
(リフォーム産業新聞)※司会 福田 善紀
(リフォーム産業新聞)※司会 福田 善紀