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資材の価格高騰、不動産DX、転職なき移住…。LIFULL HOME’Sに聞いた、2022年の住宅業界ワード

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LIFULL HOME'S総研 副所長 / チーフアナリスト

LIFULL HOME'S総研 副所長 / チーフアナリスト

出版社を経て、 1998年から不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間多数の不動産市況セミナーで講演。2014年9月にHOME’S総研副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。(一社)安心ストック住宅推進協会理事。

社会情勢・ライフスタイルの変化が浮き彫りになった、2022年の住宅トレンドワード

出典:LIFULL HOME'S 住まいのヒットワード番付 2022

「住まいのヒットワード番付 2022」は、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」などの 運営を行う株式会社LIFULL(ライフル)が2022年11月に発表した、全12のトピックスからなる住宅トレンドを番付にしたものです。

たとえば東の横綱は「建築資材の価格高騰」、西の横綱は「18歳からの住まい契約」。世界情勢や法改正など、住まいに大きく影響する出来事が多かった2022年を象徴するトレンドワードが並びました。

この企画は初の試みだったとのことで、まずは番付を作成した背景や理由などをインタビュー。「LIFULL HOME’S総研」副所長でチーフアナリストの、中山登志朗(なかやま としあき)さんが答えてくれました。

中山:流行語大賞をはじめ、その年のトレンドを発表する企画は業界ごとにもあるものですが、これまで住宅・不動産業界ではなかったかなと思います。2022年の振り返りをする中、出てきたキーワードをまとめていた際に「これを番付にしたら面白いのでは」「住まいにまつわる課題や取組みを、もっと身近に感じていただけるのでは」という発想から発表させていただきました。

住まいの意識を大きく変えた「リモートワーク」

LDP編集部:番付のワードは気になるものばかりですが、まずは、中山さんが特に気になったヒットワードとその理由を教えてください。

中山:個人的に気になったのは、西の関脇「転職なき移住」。ちょうど東の関脇「ワークスペース付きマンション」と対照的な関係にあるのもポイントです。移住に関していえば、これまでは生活圏から遠く離れた場所へ引っ越すイメージでしたよね。多くの人、特にビジネスパーソンにとってそれは、転職も意味します。

それが、リモートワークの浸透によって転職なき移住が可能となりました。2022年4月からは「いいいじゅー!!(NHK)」というTV番組のレギュラー放送が始まったことなどから見ても、それだけ世の中の関心を集めている事象だといえるでしょう。それは、移住自体のハードルが下がったことも関係しており、やはりリモートワークが大きなポイントだと思います。

一方の「ワークスペース付きマンション」は、共用部分にコワーキングスペースのような個室や学習室のような仕切りで区切られたスペースが設けられたマンションのこと。こちらもコロナ禍以降は特に注目を集めており、自宅内にリモートワークできる場所を確保できないファミリー層の方を中心に人気です。

LDP編集部:なるほど、ライフスタイルが変わってきていることの裏付けにもなりますね。

中山:「転職なき移住」と「ワークスペース付きマンション」のどちらも、自宅にいながら仕事することを前提に急浮上してきたキーワードであり、非常に2022年を象徴するトピックスだと感じています。

資材高騰、地価上昇…。今、本当に住宅は売りにくいのか?

出典:一般財団法人建設物価調査会 ※建築費指数(工事原価)=建築物の工事価格の動向を把握する一種の物価指数、東日本不動産流通機構「新築戸建住宅レポート」

LDP編集部:ここからはLDPが気になったワードについて詳しく教えてください。まずは東の横綱「建築資材の価格高騰」から。LDPの取り扱い店様の話を聞いていても、昨今の資材高騰への不安は多く聞きます。

中山:「建築資材の価格高騰」の背景はいくつかありますが、大きな要因は円安とウクライナ情勢です。もともとコロナ過で サプライチェーンの逼迫による資材不足が叫ばれていましたが、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに深刻化。原油価格高騰などによるウッドショック、アイアンショックが相次いで発生しています。

資材高騰はつまり、そのまま住宅建設費の値上がりにつながるのですが、やはりリノベーションなども含む中古よりも新築物件のほうがストレートに影響を受けます。

LDP編集部:住宅業界にとっては厳しい話ですね。この状態がすぐに変わる見通しが立たない中、どうにか切り抜けていかないといけないと思います。
LDPが展開しているのは「規格住宅」なので、敢えて伺いたいのですが、規格住宅だからこそ売りやすい、ということはあるのかなと。この点はいかがでしょう。

中山:そうですね。新築物件の中でもフルオーダーの注文住宅 よりは規格住宅などのカスタムオーダータイプのほうが資材購入のスケールメリットを生かせるという点でも、売りやすいということは言えると思います。

LDP編集部:エンドユーザーへのアプローチの仕方としてはどのような方法があると思いますか?

中山:近年、ユーザーに特に関心が高いのは「住宅性能」です。これが注目されるようになった背景にあるのは国の取り組みと、それに伴う補助金政策。2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減、そして2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指しており、特にZEH(net Zero Energy Houseの略。省エネと創エネを組み合わせてエネルギー消費量をゼロにする住宅のこと)要件を満たした脱炭素化住宅「LCCM(Life Cycle Carbon Minusの略。住宅のライフサイクル全体でCO2収支をマイナスにすること)住宅」などが推進され始めています。

こうした住宅は初期費用こそ高くなりますが、だからこそ補助金は見逃せません。また、太陽光パネルの設置や蓄電池、電気自動車を組み合わせるなどして長年住み続けていけばランニングコストがかなりお得になるという算出もあります。こうした制度を理解して、うまく提案すれば、住宅購入価格が多少高くなっても理解していただける、ということはあるのではないでしょうか。住宅コストは購入時のイニシャルコストだけでなく、住み続けている間に発生するランニングコストとのトータルで考える時代に変化しているのです。

LDP編集部:続いて、東の大関「住宅地価上昇」についてはいかがでしょうか?

中山:こちらもコロナ禍によるリモートワークの定着が大きく関係しています。居住地に関する選択肢が広がるとともに、住環境への関心が高まったことで、広範囲にわたって住宅地価が上昇しました。

特にポイントなのは、首都圏やベッドタウンと呼ばれるような都市部と周辺地域だけでなく、地方都市でも地価上昇がみられたことです。前述の「転職なき移住」が可能になったこと、毎日出社する必要がなくなったことで居住地のニ―ズが郊外に拡散したことも印象的でした。

LDP編集部:資材高騰と地価上昇…。売り手にとっても買い手にとっても頭を悩ませる状況ですね。このような状況下でも、ポジティブな面はあるのでしょうか?

中山:建築資材も住宅地価も高騰するということは、物件の価格も当然上がります。ただこれは円安のいち要因でもあるのですが、日本は未曽有の金融緩和政策を続けていますよね。それと関連して、住宅ローンも極めて低い金利で借り入れることができるのです。

そのため場合によっては、物件が同じ条件でも賃貸の家賃より住宅ローン返済額のほうが、毎月の支払いを安くできるケースもあり得るでしょう。日本経済は低金利であることが景気を冷やさない政策であり続けていますし、住宅業界は金融緩和政策と密接な関係があるといえます。

住宅業界でも進むDX化。さらなる加速の一歩は、「できるところから始める」こと

LDP編集部:最後に、西の大関「不動産DX加速」についても教えてください。LDPはデジタル分野に力を入れているので、DX化はとても気になるワードです。

中山:2022年はオンライン内見や不動産取引の電子契約解禁など、住宅業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速した年でした。実際に「お客さまがオンラインで内覧~契約を希望されるケースが増えた」という不動産会社の声もありました。

背景は、業務の効率化やコロナ禍による非接触ニーズですね。「不動産DXは何から取り組んだらいいんですか?」という質問を受けることが増えました。その際にお話しすることは次の2点です。

ひとつは、「社員のパソコンとスマホとを連動させて、物件の写真や動画をお客様に送ればいいだけのことなんですよ」と。そしてもうひとつは「契約書の発行を紙ではなくオンラインでやりましょう。収入印紙が要らなくなり、コスト削減になりますよ」ということです。まだまだ業界全体でデジタル化に弱い傾向があるので、いきなり難しいことを取り入れるのではなく、まずは簡単なものから取り入れてみることをおすすめしています。

LDP編集部:なるほど。「これだけでいいのか」と思ってもらうだけでも、デジタルへの心理的なハードルは下がりますよね。LDPでも「LIFE LABELの家づくりアプリ」や「Doliveアプリ」などを提供していますが、こうしたアプリにも言えることですよね。

中山:そうですね、アプリも同じだと思います。当社でもアプリを提供していますがまずはそれを使うことでどんなメリットがあるのかを端的にお伝えして、そのうえで「まずは操作をひとつだけでいいので覚えてください。ほかはまだ大丈夫なので、これだけを使ってください」と。こうしてハードルを下げることで、もっと多くの方に、アプリを触ってみようかなという気になっていただけると思います。

2023年はどうなる?

本稿では「住まいのヒットワード番付 2022」のトピックスを中心に紹介しましたが、LDPでは2023年のトレンドについても、「LIFULL HOME’S総研」の中山さんにインタビューを行いました。その内容は新年に掲載する記事でお届けします。次回のTRENDYYY部をお楽しみに!

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