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建設・住宅業界で話題の2024年問題。乗り越えるための対策とは

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ツクリンク株式会社 代表取締役社長

ツクリンク株式会社 代表取締役社長

大学中退後、とび職人に。その後建設会社の管理職を経て、フリーのWebデザイナーに転身。IT関連のイベントを機に親しくなった仲間と2012年にハンズシェア(現ツクリンク)を創業し、翌13年に職人の求人や工事の受発注が無料でできる建設業マッチングプラットフォーム「ツクリンク」のサービスを開始。

2024年、何が起きる?業界に与える影響とは

LDP編集部:「2024年問題」が今、建設業界で注目されていますよね。改めて、どんな問題が起こる可能性があるのか教えてください。

内山:概要としては、「働き方改革関連法」(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」)が適用開始される2024年4月までに、建設業界が解決しなければならない労働環境問題のことです。

内山:時間外労働の上限や割増賃金率の増加など、企業が遵守しなければならない法令が増えることになり、大企業では2019年、中小企業では2020年から順次適用されました。ただ建設業は、高齢化や人材不足が深刻で、環境改善に時間がかかるという議論があり、2024年まで猶予期間が設けられました。

とはいえ人材不足はいまだ課題であり、さらに建設業界には施工会社の「偽装一人親方」というグレーな問題があります。これは正社員と同じように働いている職人を、契約内容だけ個人事業主として外注扱いする問題のことで、法律では禁止されています。外注であれば社会保険料の負担などを免れられるので横行しているのですが、「偽装一人親方」には新採用となる法令が関係なくなってしまうという問題もあります。

今年の10月からインボイス制度(消費税の仕入税額控除の方式の一つで、課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除することができる制度のこと)が始まる関係で、職人の社員化も進められていますが、「偽装一人親方」のうまみを手放したくないという企業もいるでしょうから、完全にはなくならないでしょう。加えて、雇用をしっかり整備した会社が損をして、そうでない会社が得をしてしまう可能性があることも問題だと思います。

LDP編集部:なるほど。「働き方改革関連法」適用後の企業側、特に工務店やビルダークラスだとどんな影響がありますか?

内山:企業の負担が増えますので、確実な業務効率化が求められます。ただ土日を含め、稼働時間を守りながら今までと同じ単価で業務を遂行させていくのは難しいと思いますし、状況次第ではコストアップもやむを得ないでしょう。
また、就業時間の減少は工期遅れを招く要因となります。時間外労働をせず納期に間に合わせるためには、人員を増やす必要も出てくるでしょう。ただし採用にもかなりの費用がかかりますので、悩ましい問題ではあると思います。

LDP編集部:資材高騰のなかで、人件費もさらに…となると厳しい問題ですね。建設・住宅業界のなかでも、業種によって影響の大小はありますか?

内山:業種としては、ほぼすべてが影響下にあります。そのうえでより影響を受けるのは、壁紙やクロス張りなど大きな作業音が出ない業種ですね。
その特性上、夜間に作業をすることも多いのですが、深夜稼働分も日中と同じ金額で支払われていたというケースは少なくないはずです。それが時間外労働とみなされますから、コストアップ対象の代表格といえるでしょう。

働き手不足の建設・住宅業界。一方で待遇改善の兆しも

LDP編集部:内山さんは業界に長くいらっしゃるかと思いますが、建設・住宅業界の働き方をどう見ていますか?

内山:私自身、約25年前から業界におりますが、当時はルールなんてないようなものでした。ただ、日本全体の働き方改革の流れのなかで、社会保険を入れたり、週休2日を導入したり、待遇を改善させようという経営者も増えてきています。
一方、ルールを遵守することで損をしかねないことも見逃せません。たとえば前述したような「偽装一人親方」の例ですね。ルールを守る会社Aと守らない会社Bで見積もりを取れば、どうしてもAのほうが高くなってしまうでしょう。このジレンマのような状況は、業界を挙げて解決すべきだと思います。

LDP編集部:業界全体としては徐々に待遇が改善されている、その背景をより具体的に教えてください。

内山:最も大きな理由は労働人口の減少と高齢化。つまり働き手不足ということです。不足している要因はいくつか考えられますが、業界で働く魅力の低下が主として挙げられるでしょう。
私が働き始めた当時の建設・住宅業界は、ルールはさておき今より安泰で魅力的な職種だったと思います。ただ、リーマンショックによって倒産廃業が相次いだり、政権交代で逆風が吹いたり、斜陽化し稼げなくなった側面は否めません。私自身も一度離れていますし。
そのなかでしっかり採用していくためには、雇用制度を整えていかなければならないということです。業界内では世代の新陳代謝なども起こり、建設・住宅業の魅力を高めていこう、待遇を改善していこうと取り組む経営者も出てきました。これは非常に明るい兆しだと思います。

規格住宅は「2024年問題」の一助になるか?

LDP編集部:では「2024年問題」を乗り越えるにはどんな対策が考えられますか?

内山:業界全体として、労働時間が制限されて自社で足りなくなったリソース分をどこでまかなうか、が重要になってくると思います。おそらく1社では厳しいところも出てくるでしょうから、同業種も含めて協力関係を持てる会社との横の連携を増やしていく必要があります。

LDP編集部:工務店クラスでも、同じでしょうか。

内山:元請けの会社の社員に関しては自社でコントロールできると思いますが、その下請けや協力会社は、稼働時間や納期に関する問題と直面するでしょう。ですので、納期を伸ばしてでもこれまでと同じ協力会社に依頼するか、もしくは協力会社を増やすのか、の2択になると思います。

LDP編集部:人手不足の中、協力会社含め、人材を確保するのは難しそうですね。

内山:建設・住宅業界は、繁忙期と換散期が非常にはっきりしていて、繁忙期に人が足りなくなる問題は確かにあります。実はツクリンク設立の背景にあるのもその課題感でした。もっと職人が時期に左右されずバランスよく働けたら、雇い手と働き手が協力し合える関係性を業界のなかにつくれたらと。もし「2024年問題」の影響でリソースが足りないという状況があれば、ツクリンクのようなマッチングサービスを利用するのも手。その分を埋めていただけたらと思います。

LDP編集部:私たちが扱っている規格住宅も、「2024年問題」の一助になる側面がありそうな気がします。

内山:規格住宅を注文住宅と比べた場合、打ち合わせや工数などは規格住宅のほうが少ないでしょうから、工務店の効率化の面などで利点があるかもしれませんね。

LDP編集部:弊社のようなフランチャイズであれば、デザインの担保ができたり、PR用のコンテンツを用意できたりするので、それも助けになりそうです。

内山:そうですね。そういった部分はそもそも、職人や、職人上がりの工務店さんが苦手とされている分野でもあるので、サービスを利用する工務店側が、うまく取り入れて利用していくのが良いかと思います。また、重要なことは、発注者にあたる工務店が受注する職人ひとりひとりに対してどれだけ単価を上げられるか、という点ですね。
工務店も職人もお互いに効率化を意識しつつ、単価を上げることができれば、建設・住宅業の仕事もより魅力的になっていくと思います。規格住宅の導入によって職人の単価が上がるのであれば、非常に素晴らしいことだと思います。

「2024年問題」をプラスに捉えて、事業改革の機会に

LDP編集部:中長期的な視点で、建設・住宅業界が意識すべきことはなんでしょうか?

内山:業界全体の課題として、やはり人手不足であることは否めません。大切なことは、人口が減少していく中で、どう若者を採用していくかということです。その背景に欠かせないのは、繰り返しとなりますが賃金や待遇の善し悪しでしょう。

内山:その点でみても、「2024年問題」は建設・住宅業界が乗り越えていかなければならない問題です。他業種と比べたときに、賃金や待遇が悪ければ人も入ってきませんから。
これまで、採用面での建設・住宅会社のライバルは、同じ地域の建設・住宅会社や運送業でした。しかし求職者である若者の視点でみれば、そこだけが横並びではない。建設・住宅会社を見ると同時にIT企業も比較対象になってくる。そうした時に、IT企業のほうが魅力的であったりするわけです。

業界はこうした現状も捉えつつ、産業構造を変えていくべきだと思います。一方で、建設業というモノづくりには他業種にはない魅力もたくさんあります。有名な建設企業のキャッチコピーに「地図に残る仕事。」がありますが、それも魅力のひとつでしょう。遠い存在に思われがちですが、衣食住のひとつを担う、人々の生活に欠かせない職業ですし。

LDP編集部:確かにそうですね。世の中的には力仕事や現場仕事、というイメージが強いかもしれませんが、暮らしに直接関わる魅力的な仕事としてアピールできそうです。

内山:はい。それに、この業界の仕事は、実はなくならない仕事でもあると思います。

LDP編集部:なくならない仕事、ですか。

内山:たとえばAIや、最近の話題ですとChatGPTによって奪われる仕事もあるといわれますよね。近年の花形職種であったITエンジニアでさえも危ういでしょう。事実、世界的に有名なIT企業の大量リストラというニュースも聞かれます。
その一方、建設・住宅業界の仕事はITによる効率化にはまだまだ時間がかかると思いますし、一気に波が来るとは考えづらい。良かれ悪かれアナログな産業構造のため、IT化自体が遅れていますから。つまり相対的に、安定した職業であるともいえる、ということです。

話が少々飛びましたが、「2024年問題」は若い世代を建設・住宅業界に呼び込むためのきっかけと捉え、自社の事業改革にいち早く取り組んでいくことが大切だと思います。その方法のひとつとして「ツクリンク」を活用いただいたり、規格住宅の導入を考えていただいたり。とにかく、自社にあった対応を考えることが大切です。
「2024年問題」として直面する法令は、順守しなければなりません。まだ適用開始まで時間がありますので、今からでも準備していくことをおすすめします。

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来たる2024年4月に向けて、「2024年問題」はますます注目度が高まるキーワードといえるでしょう。引き続きTRENDYYY部では、世の中のトレンドを読み解いていきます! 次回もどうぞお楽しみに。

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