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2023年に注目すべき住宅業界ワードは、省エネ・リアルエステートビルダー・ウェルビーイング。市況分析のプロに聞いた

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LIFULL HOME'S総研 副所長 / チーフアナリスト

LIFULL HOME'S総研 副所長 / チーフアナリスト

出版社を経て、 1998年から不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間多数の不動産市況セミナーで講演。2014年9月にHOME’S総研副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。(一社)安心ストック住宅推進協会理事。

ZEH、省エネ住宅…注目集まる「住宅性能」

LDP編集部:さっそくですが、中山さんが2023年に注目しているワードを教えてください。

中山:大きく2つあり、ひとつは住宅性能に関するトレンドです。不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」が発表した「住まいのヒットワード番付 2022」で、東の横綱に挙げたのが「資材の価格高騰」でした。付随して不動産価格も上昇する中、今後ますます環境に優しい省エネ住宅に注目が集まるでしょう。

LIFULL HOME’S「住まいのヒットワード番付 2022」

中山:これは大前提として、各国が掲げる長期的な課題のカーボンニュートラルが関係しています。日本でも環境省が旗振り役となって2050年の実現に向けて力を入れており、私たちの意識も年々高まっていますよね。不動産業界でも取り組みは進んでいますし、購入を検討される消費者の方々も、価格が高騰しているとはいえ住宅の環境性能は非常に気にされるポイントです。

背景には、省エネでありながら夏は涼しく冬は暖かいという快適な住み心地に加え、太陽光パネルによる余剰売電などのメリットもあります。購入時のイニシャルコストが若干高くても、長期的にはお得だと考える方は少なくありません。

LDP編集部:確かに、昨年末には東京都が新築住宅における太陽光パネル設置の義務化条例を発表し、大きなニュースとして取り上げられました。自家発電への注目度は増していきそうですね。

中山:はい。新築はもちろん、リフォームでも太陽光パネルのほか、蓄電池やEV用コンセントの設置などの施行事例は増えていますから。加えていっそう増えていくであろうケースが、こうしたリフォームを踏まえた買取仲介です。

中山:この事例は、都市よりも郊外や地方で顕著に見られるでしょう。なぜなら、築20年弱であれば300~600万円で購入できる物件も少なくないから。また、昨今はテレワークの浸透で二拠点生活のセカンドハウスにも注目が集まっているからです。

安価で比較的築浅な郊外物件を数百万円でリフォームすれば、今どきの住宅並みの設えになりますし、省エネ性能を向上することも難しくありません。間取りを変えれば、専用ワークスペース付きのセカンドハウスにもできます。働き方改革は少なからず進みますので、首都圏以外の受け皿も出てくるでしょうし、そこに新しいビジネスチャンスがあるとも思います。

LDP編集部:なるほど。では、もうひとつの注目は?

中山:マンション関連です。これまで、タワーマンションが相続税対策で有利に働いていました。特に高層階になればなるほど市場価格と相続税、評価額の乖離が大きいので、その分節税ができたのです。とはいえ不公平だという議論もあったわけで、2023年はこの是正について議論が進むのではないかと予想しています。具体的には、2023年末に決定する2024年度の「税制改正大綱」にタワーマンション節税対策が盛り込まれる可能性が高いですから、相続税対策をする必要がある方は留意すべきポイントになり得ます。

また、マンション関連のトピックはもう1点、「住まいのヒットワード番付 2022」で西の小結に挙げた「ZEH-M(※)」も見逃せません。これも省エネ関連ですが、昨今は数社の大手マンションデベロッパーが、今後自社施工の新築物件はすべてZEH基準にすると発表しています。

物件の住宅性能を高める前向きな取り組みではありますが、これは価格とも表裏一体。物件の価格も当然引き上げられますので、価格高騰の言い訳に使われる可能性もあるんですね。ポジティブな側面と、若干ネガティブな業界内部のイメージを持つ言葉として、注目のキーワードになっていくと考えています。

建築と不動産を一括提案する「リアルエステイトビルダー」

ではここからは、LDPがピックアップしたワードをご紹介。営業事業部でマネージャーを務める田村が解説していきます。

田村:LDPが注目しているのは、業界で「リアルエステイトビルダー」と呼ばれるプレイヤーの増加です。文字通り、リアルエステートは不動産、ビルダーは工務店。つまり、建築と不動産を一括提案する企業が増えるということです。

長年、不動産と工務店は別々のプレイヤーという構図が続いてきました。ただし近年は、ある程度の規模がある企業を中心に、不動産部門を持つ工務店が出てきています。そのほうが、どんなニーズがあるのかを知ることができますし、施主さんからしてみても、土地と建物の窓口がひとつのほうが効率的で便利ですよね。

世の中的にも住宅を初めて買う一次取得者層が減っていく中、これからはセットで提案してもらえる効率的な会社のほうが選ばれていくのではないでしょうか。

売り手側からしても「リアルエステイトビルダー」のメリットは多数。工務店であれば、施主さんが新築を検討する場合は、不動産会社が管理するポータルサイトから土地を探すケースが多いでしょう。そのスタートラインから建物をセットで提案できれば、商機の幅が広がります。

不動産会社であれば、土地プラス建物をセット提案できればその分も利益となりますよね。さらにいえば、LDPで手がけているような規格住宅は、建築が専門ではない不動産会社でも、商品化されていてコンセプティブなので売りやすいと思います。

また、工務店にも規格住宅はおすすめです。フルオーダー型の注文住宅のほかにセミオーダー型の規格住宅を持っておけば、顧客への提案の幅も広がりますから。不動産と工務店のふたつの軸があれば顧客のタッチポイントを増やす意味でも有利かと思います。

近年住宅の着工数は減少していますが、それでも大手の分譲住宅は健闘しています。それは、土地と建物をセットで効率的に提案できることが、ユーザー側にも受け入れられている証といえるでしょう。わかりやすさや利便性というニーズをくみ取り、その部分を強めていくことは重要であるともいえるのです。

情緒的な価値を持つ「ウェルビーイング住宅」

もうひとつは「ウェルビーイング(Well-being)住宅」です。「ウェルビーイング」は身体も心も社会的にも、すべてにおいて満たされた状態であることの概念。企業価値や商品・サービスの価値としても、近年は「ウェルビーイング」が求められていますよね。

これは住宅業界でも同様。お客様の暮らしにも、より「ウェルビーイング」に沿ったものが求められてくるでしょう。機能美、環境性能などももちろん重要ですが、「ウェルビーイング」の文脈では性能的な価値を超えた、心の充足や自分らしいライフスタイルを叶えられる住宅が求められると思います。

当社も住宅ブランド商品「LIFE LABEL」と「Dolive」を扱う中で、よりお客様の好みに合わせたライフスタイル、ワクワク、エンターテイメントといった要素を大切にしてきましたが、これらも言い換えれば「ウェルビーイング」ではないでしょうか。

こうした「ウェルビーイング住宅」を形にすることは、そう簡単ではありません。ただ「ウェルビーイング」の提案は様々な業界で行われており、異業種同士が共感し合いながら、顧客へ届ける体験価値を最大化していくことが大切です。

企業は自社開発するのか、外部の人材を入れるのか、異業種とコラボレーションするのか。こうした取り組みへの足掛かりを作るのが、まずは第一歩になるのではないかと思います。

注目ワードの共通点は社会情勢や消費者心理

住宅業界の動向に詳しい2人が挙げた2023年のトレンドワードは、「省エネ住宅」「リアルエステイトビルダー」「ウェルビーイング住宅」でした。社会情勢や消費者心理と関連するこれらのワードは、注目している方も多いのではないでしょうか。

TRENDYYY部では引き続き、世の中のさまざまな最新トレンドを取り上げていきますので、2023年もよろしくお願いします。


※ゼッチマンション。ZEHはNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。断熱性能や省エネ性能を向上し、さらに太陽光発電などで生活に必要なエネルギーをつくり出すことで、エネルギー消費の収支をおおむねゼロ以下にする住宅のこと。

田村さんプロフィール

広告会社で約5年間働いたのち、LDPにジョイン。広報宣伝チームにて、各住宅商品のプロモーションや新商品開発を担当したのち、営業事業部のマネージャーに。
総合広告代理店で培った知見を生かして、ブランドに関わる各プロジェクトを横断したディレクション業務を行いつつ、延べ500社以上の経営層とのセッションから得た経験値を武器に、さまざまなケースの経営課題に対してコンサルテーションを行う。

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