Share

今話題の「ミニ分譲」とは?メリットとリスクを新建新聞社・三浦氏が解説

thumbnail_0320

INDEX

220714_026(大)

新建新聞社社長 新建ハウジング発行人

新建新聞社社長 新建ハウジング発行人

新建新聞社代表取締役社長。新建ハウジング・リノベーションジャーナル発行人。新建ハウジング編集長を経て現職。「観察者」の視点から、住宅産業の動向、生活者の住まい・暮らしに対するニーズ・変化を読み解き、工務店の取るべき道筋を提示する。ポリシーは「変えよう!ニッポンの家づくり」。

ミニ分譲が今、注目される理由

LDP編集部:まずは改めて、ミニ分譲とは何なのか、そして注目されている背景を教えてください。

三浦:企業などが市街化区域で土地開発を行う場合、都道府県知事の許可が必要となっています。ただし1000m2未満(一部では500m2未満)など、面積が広くない場合は例外。このような、小規模であるため許可が不要なケースをミニ分譲やミニ開発と呼びます。
モデルでいえば、300坪(約992m2)の土地があったとしましょう。1区画をたとえば約50坪だとすると、6つに分けられますよね。より小規模なケースもありますが、大体1開発で4~6区画程度がミニ分譲のイメージです。

三浦:注目されている理由は、大きく二つ。一つは、1970~2000年代まではそれなりにあった100~200区画などの大規模開発をできる潤沢な事業者が減ってきたこと。もう一つは、市街化区域における広大な土地がなくなってきたこと。こうした背景から、ミニ分譲が新たなビジネスモデルとして事業者側に注目されるようになりました。
一方、消費者側のニーズも高まっています。統一感のある街並みの中で暮らしたい、似たような価値観や生活レベルの人たちとコミュニティを形成したいといった声ですね。小規模でもしっかり計画されたミニ分譲はコンセプトが明確ですから、住まれる方の意識も高く、資産価値が落ちにくい。ですので、事業者もよりモチベーションをもって取り組むという好循環も起きていると思います。

LDP編集部:ミニ分譲は、やはりここ数年におけるトレンドであるということですね。

三浦:具体的にはここ10年ぐらいかと。ただし一般的なミニ分譲と、私の見立てでは若干ギャップがあると考えています。世間一般では土地の売却を前提に語られがちで、背景には都市部における地価の高騰や、地主の相続問題などによって広い敷地の売買が行われてミニ分譲が成立するというストーリーです。しかし私は、開発許可が不要であることや、コンセプチュアルな街づくりができることのほうが業界にインパクトを与えていると思っており、よりトレンドを語るうえでの原動力でもあると考えています。

ミニ分譲はどんな工務店におすすめ?取り扱い方のヒントとリスク回避策

LDP編集部:ミニ分譲はどのような工務店におすすめでしょうか?

三浦:いくつかあります。一つは、土地や資材価格が高騰する中、新築注文住宅だけでは事業展開が不安な工務店。そもそも、同じような仕様でまとまった棟数を建てられる分譲住宅は、オーダーメイドの新築注文住宅より生産性も利益率も高いですから。
また、新築注文住宅は施主の意向が反映されやすく、引き渡しが新生活スタートの4月などにかたまりやすい。つまり施工の繁忙期が重なり非効率になりがちなので、こうした業務集中を分散させるためにミニ分譲を取り入れる戦略もありかなとは思います。

LDP編集部:規格住宅を扱う工務店にも良さそうですね。

三浦:そうですね、コンセプトに基づいたデザインが多くて建物配置も計画しやすい、加えてまとまった棟数を比較的ローコストで建てられる規格住宅は、ミニ分譲に最適なモデルだと思います。

LDP編集部:うまく取り入れることができれば工務店にとってメリットが多そうなミニ分譲ですが、気をつけなければならないことはあるのでしょうか。

三浦:まずはやはり、売れ残りのリスクですね。特に、最後に残った1棟は売れにくいものです。日当たりや騒音などが、ほかの区画よりも条件的に不利なため残ったわけですから。このことをあらかじめ想定し、売れ残ってから焦るのではなくしっかり売り切る戦略をあらかじめ用意しておく。プランBやCなど、売れ残った場合の販売手法を考えておくことが大切だと思います。たとえば、売れ残った場合はモデルハウスとして運用したり、賃貸に回すよう算段したり。あるいは、値引きの計画を段階的に用意して最低ラインの見極めをしておくなどですね。

消費者にも工務店にもメリットが。ミニ分譲の成功事例

LDP編集部:改めて、ミニ分譲のメリットを教えてください。

三浦:まずは前述したように、消費者側には統一感のある街並みや近しい価値観をもった住民とのコミュニティを求める声があり、これらを叶えやすい点はミニ分譲のメリットといえるでしょう。
また消費者のニーズは多様化しており、高価になりがちな新築注文住宅にはこだわっていない、低コストの分譲で十分という方も少なくありません。こうした声に刺さる訴求点をアピールしつつ、分譲を購入した方が最適な選択をしたと思える提案をしていく、満足度を高めていく努力は工務店さんに求められるポイントです。
工務店側のメリットとしては、理想の街づくりができることが挙げられます。ミニ分譲は事業者の技術やセンスが反映されやすく、その世界観は地域の方の目に触れる機会となりますよね。作り手の認知度アップやブランディングになるうえ、モデルルームや分譲モデルとしても活用できます。これはミニ分譲ならではですね。

LDP編集部:三浦さんは取材などを通して、さまざまなミニ分譲を見られてきたかと思います。印象的な事例があれば教えてください。

三浦:弊社の「新建ハウジング」で取り上げているほか、グッドデザイン賞にも輝いた事例に、茨城県の柴木材店が手掛けたつくば市のミニ分譲があります。

コンセプトを持ったミニ分譲(提供:新建ハウジング)

三浦:規模は4区画で、半分は規格住宅ですが統一感のあるハイセンスなデザインが特徴。各住居の並びをあえてずらし、目線が向き合わないように配慮していたり、植樹をリッチに美しく設えたりといった景観美も見事です。現地へ行けば、ここだけ別世界のような街並みが形成されていると感じられるでしょう。
加えて特徴的なのは、区画内に塀を設けておらず隣住居との境界がないこと。これは一見デメリットに思われるかもしれないのですが、境界がないからこそ距離感の近い交流が生まれています。
施主さんに話を聞くと、隣同士で会話をすることは日常茶飯事とか。さらには井戸端会議をしたり、毎週のように飲み会を開いたり。また、全世帯に歳の近いお子さんがいらっしゃって、皆で成長を見守る環境が自然と生まれているそうです。
感覚としては、ご近所づきあいのいいところは採用し、面倒なところはやらない。そんな世界が実現されていると感じました。このミニ分譲は全施主さんの家族構成や価値観がきわめて一致した稀な例かもしれませんが、住環境やライフスタイルを皆でよりよくしていこうという意識も感じられ、ひとつの理想形だと思います。

ファンコミュニティを重視したミニ分譲は、これからの家づくりのカギに

LDP編集部:この事例を聞くと、やはりコミュニティが重視されていると感じます。

三浦:そうですね。特につくばの例は、境界がないことが踏み絵の役割を果たしていると思うんですね。つまり、塀がないことをメリットだと思える価値観の人が集まるから、ご近所同士で仲良く暮らせるということ。実際に聞いた話でも、塀がないからむしろいいとおっしゃっていましたし。
私はこうしたケースを「コミュニティ型分譲」と呼んでいるのですが、住宅のデザインや機能性以上に、“同じ価値観をもった人と近所づきあいをしたい”という方は一定数いると感じており、こうしたニーズにはコンセプチュアルなミニ分譲が非常にマッチすると思います。

LDP編集部:コミュニティが重視される背景には何が考えられますか?

三浦:大前提として、特に都市部では地縁や血縁が薄くなったという社会環境があると思います。これはコミュニティデザイナーとして有名な山崎亮さんという方の言葉ですが、「コミュニティ」には二通りあると。一つは地縁や血縁。もう一つはライフスタイルや趣味など、ある特定の価値観で共感しあう集団のこと。
つまり、地縁や血縁が薄まった分、近しい価値観をもった人と関係を築いていきたいという欲求が高まり、その結果がミニ分譲におけるコミュニティの重視にもあらわれているのかなと。
コロナ禍で非接触が強いられた一方、人と触れ合う機会の貴重性は高まりましたし、さらに振り返れば震災では絆が求められもしました。もちろん全員に当てはまるわけではありませんが、人間関係を重視した住まいを求める機運は高まっていると思います。

LDP編集部:将来的にはコミュニティを重視したミニ分譲が増えていくのでしょうか?

三浦:世の中の価値観とともに施主さんの層も次世代へと移り変わる中、ニーズは高まるとは思います。ただ、私が提唱する「コミュニティ型分譲」が増えるかどうかは、事業者側がエリア特性を見極めて開発できるかどうかもポイントだといえるでしょう。
たとえば、計画する地域に近しい価値観をもった施主さんが集まるのかどうかなど。逆にいえば、海沿いのエリアであればサーファーが集まるミニ分譲の街をつくることだってできると思います。

何はともあれ、事業者側として気を付けるべきは、どこの土地を買って計画するか。そこでは、昨今話題に上がる地価高騰も見逃せません。これは日本経済と対象エリアの行方、そして金融機関の判断にもよりますが、土地の値段が少しでも上がっていくのであれば、その土地を持っているだけで資産価値が上がるということですよね。その意味では、積極的に土地を購入していくという考え方もありだと思います。

あとは事業者の意識次第。他業界ではSNSなどを駆使したファンマーケティングが積極的に行われていますが、住宅業界ではまだまだこれからでしょう。しかし、だからこそファンコミュニティを重視したミニ分譲は注目を集めていくはずですし、ファンマーケティングは地域を熟知した工務店さんの強い武器になるとも思います。

ーー

住宅市場を熟知した三浦社長が考える、ミニ分譲の可能性と未来。価値観が多様化し、売り手・買い手ともに世代が移り変わる中、今後も注目のトレンドだといえるでしょう。

Prev

経営記事一覧

Prev

Next