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住宅市場

今、気になる“平屋ブーム”のあれこれ。住宅産業研究所月刊TACT編集長に聞いてきました!

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右肩上がりで伸びていく平屋人気

今、住宅市場で「平屋」が注目されているのをご存じですか?
雑誌をはじめ各種メディアで特集が組まれることもあり、住宅業界では見逃すことができないトピックになっています。
しかし、どれほど人気なのか、なぜ注目されているのか、今後どのような平屋が求められていくのかなど、いくつかの疑問が湧いてくる方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、住宅に関するさまざまなテーマを研究している住宅業界誌「月刊TACT」編集長の布施哲朗さんとLDPで営業事業部のマネージャーを務める田村が昨今の平屋事情を解説していきます。

平屋棟数・平屋比率の推移  ※国交省「建築着工統計」データより作図

人気の背景にあったのは、時代の変化と平屋の高いポテンシャル

平屋の普及の仕方には、地域ごとに違いがあるといいます。
「たとえば九州地方は以前から平屋比率が高い傾向にありましたが、宮崎と鹿児島にいたっては直近では50%以上。首都圏に近い割に広い土地を安く買いやすい北関東も、他のエリアと比べて伸び率は顕著です。北関東エリアでは人気を集めている平屋専門店もあると聞いています。そのほか、千葉では平屋だけの分譲地が生まれて、ものすごいスピードで売れていきました。コロナ禍で都市部を離れ、郊外や地方で暮らすニーズが高まっている中、広い土地でゆったりと暮らすことができる平屋に需要が集まっているんだと思います」

21年度都道府県別平屋棟数・平屋比率  ※国交省「建築着工統計」データより作図

なぜ今、これほどまでに平屋が求められているのでしょうか。その背景を布施さんが分析します。

「ひとつは、世帯人員の減少が大きいです。少子高齢化が進んで1世帯あたりの子どもの数が減っていたり、独身世帯も増えてきています。私が小さい頃は、クラスメイトにも4人兄弟や5人兄弟といった家庭がいましたが、今や珍しくなってきています。そして、高齢者の単独世帯が増えたり、結婚する人も減ってきている。そうした状況を考えると、大きな家で部屋数が多くても持て余してしまうんですよね。
あとは、近年Z世代に代表されるように、ミニマリスト的な価値観が広がってきています。『無駄に大きいもの、無駄にたくさんの機能』は求めず、『最低限・最小限のものや機能』で満足できる。そんなトレンドにも、平屋は合致していると思います」

平屋人気の背景にあるのは、時代の変化だけではありません。平屋が持っている本来のメリットも、大きなポイントになっていると話します。

「平屋には5つのメリットがあると考えています。
1つめは、設計の自由度。2階建ての住宅って、どうしても2階の重さを1階で支えないといけないので、柱の数や壁の位置に制約が出てきます。でも、平屋だとその制約が軽減される。その分、空間を自由に設計できるんですよ。

2つめは、開放感。構造やコストの問題もあって、2階建ては、天井をそれほど高く設計できないんです。でも、平屋だと小屋裏空間を有効活用して天井高を確保できます。しかも1階と2階の間に床もないので、トップライトや吹き抜けから全ての部屋に光を取り入れる設計も可能。建物自体の高さはなくても、十分な開放感を得られるんですよね。

3つめは、コスト。平屋の場合、メンテナンスにかかる費用が抑えられるケースも多いんです。たとえば外壁塗装する場合、2階建てだと足場を組まなければならない分、コストがかさんでしまいます。でも、平屋だったら自分ではしごを持ってきてDIYでペンキを塗ることもできますよね。

4つめは、シンプルな生活動線。たとえば1階で洗濯機を回して、2階のベランダに干しに行くのってなかなか面倒ですよね。でも、平屋の場合は上下階の移動がない。その分、負担は少なくなります。特に高齢になったとき、階段移動は大変になってくるでしょう。段差をなくしたり、不要な壁を取ったりすることもしやすいので、バリアフリーの観点でも平屋は都合がいいんです。

5つめは、太陽光発電との相性。近年、太陽光発電パネルを設置する住宅も増えてきているように思います。平屋だと屋根の面積を大きくできるので、その分パネルをたくさん設置して、発電量を確保することができるんです」



これから求められていく平屋のかたち

まさに今の時代に求められている平屋。その中でも、「“売れる”平屋」とは、どのようなものなのでしょうか。布施さんが平屋のトレンドを語ります。

「ポイントは、外とのつながり。平屋は、居室全部が1階にあります。つまり、窓を開けると、すぐに地面が出てくるわけです。そこでウッドデッキをつくったり、中庭を設けたり、大きく軒を伸ばした軒下空間を用意したり。外とのつながりを感じられる、中間領域をうまく取り入れることがひとつのトレンドになっているように思いますね。そこでベンチを置いて一休みしたり、コーヒーを飲んだり、といったライフスタイルに憧れる人も多いのではないでしょうか」

これからの平屋市場はどうなっていくのでしょうか。最後にLDPで数々の住宅商品開発に関わってきた田村と布施さんが意見を交わしました。

田村:布施さんにあげていただいたデータは、現時点ですでに建てられた平屋の数。『自分も平屋を建てたいなぁ』と憧れている潜在層を含めると、もっとマーケットは広がるのではないかと考えています。現に、LDPの取扱店様でも、平屋の見学会は通常より来場者数も増えるみたいですし、Youtubeでルームツアー企画をした際、他の動画の再生回数が1万回程度だったのに比べて平屋の動画だけ50万回再生を突破したというケースもあります。

布施:これまで住宅といえば、2階建てがスタンダードだった中で、1階しかない平屋は新鮮に映るんでしょうね。しかも、平屋って設計の自由度が高い分、斬新な間取りや空間をつくりやすい。だから、『家に対する固定概念を壊してくれるのではないか』というワクワク感を与えてくれるような気がするんですよね。たとえば、全面1ルームの平屋があってもいい。布や家具で空間を仕切っていくのもおもしろそうじゃないですか。

田村:ただ、平屋のマーケットを広げていく上では、もっと選択肢を増やさないといけないと思っています。平屋って、どうしても”和”のデザインで提案する会社が多いと思うんですよね。でも、そこにとらわれなくてもいい。たとえば、近年では『カリフォルニア工務店』さんが西海岸スタイルのサーファーズハウスを提案しています。

布施:新たな平屋のデザインは、LDPさんにも期待したいところです。現在はどのような展開をしているんですか?

田村:たとえば、雑誌POPEYEとコラボレーションした住宅商品『Mr.Standard』はひとつの例です。この商品は、自分たちの手で個性を表現していけるようにクラフト感をキーワードにデザインしています。壁も天井も合板を使っているので、塗装したり、クロスを貼ったりするのも自由。デザイン自体も、どんな個性にもマッチするようにベーシックなものにしています。



LIFE LABEL規格商品「Mr.Standard produced by POPEYE」

あとは、GORDOEN MILLERとコラボレーションした住宅商品『THE HOUSE GARAGE PROJECT』にもフラットタイプがあります。これはアウトドアライフを愛する人たちのための家。屋内と屋外のいいとこ取りをした“ガレージ”という空間を使って、ギアをメンテナンスしたり、家族と過ごしたり、仲間と集ったりしながらアクティブライフを表現してもらいたいと考えています。

Dollive規格商品「THE HOUSE GARAGE PROJECT」

平屋にこれだけメリットがあって、ニーズも高まっていれば、住宅検討する際に潜在意識の中に「平屋を見てみたい」という欲求があると思うんです。そんなときに住宅会社や工務店は『自分たちはこんな平屋を建てることができる』といった実例を見せられるのが理想。ユーザーの目に付いて『これいいな』という印象を残せられたら集客にもつながるはずです。仮に平屋商品自体を受注しなくても、広告塔になって別商品の契約に結びつくことも十分考えられますから。『Mr.Standard』や『THE HOUSE GARAGE PROJECT』でなくても、いくつか平屋のプロダクトを用意しておくと、強みになると思います。


Dollive規格商品「THE HOUSE GARAGE PROJECT」内観

布施:これは私の考えなんですが、1人暮らし用の超コンパクトな平屋があってもおもしろいと思うんです。今は独身世帯が増えていますよね。その中で「賃貸ではなくて自分の家がほしい。だけど、大きな住宅ローンを組むほどのモチベーションや予算はない」というニーズも一定数あると思っていて。そこで住宅ローンを組んでも賃貸で暮らし続けるよりも割安になって、かつアパートよりもゆったりと自分だけの空間を満喫できる。そんな新しい選択肢が生まれればいいなと思っています。

田村:1人暮らし用の住まいとしてはもちろん、普段住んでいる土地から離れた場所で仲間とともに所有する基地のような感覚で使ってもおもしろそうですね。

布施:地方に建ててワーケーションがてら仕事場として使ってもいい。子どもが巣立って老後になったらもともと住んでいた家を売却して住み替えてもいい。いろんなシチュエーションにフィットすると思うんですよね。

田村:たしかにこれからの新しい平屋の選択肢を広げてくれそうですね。ユニークな視点、ありがとうございました!

fuse

住宅産業研究所 TACT編集部 編集長

SV / General Manager

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