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今、住宅市場にも「タイパ」が求められている!新建新聞社代表 三浦氏に聞いた、新たな家づくりのスタンダード
INDEX
introduction
世間で話題になっているホットなテーマをピックアップして、LDP視点で読み解く企画、「TRENDYYY部」。今回のテーマは、2022年の「日経MJヒット商品番付」などで話題となっている「タイパ」です!
住宅業界において意識すべきタイムパフォーマンス(時間対効果)=タイパの考え方について、新建新聞社代表、三浦祐成さんにお話を伺いました。
住宅価格が数百万円も上昇?今、住宅市場に起きている変化
ーーまずは、近年の住宅市場に起きている変化について教えてください。
三浦:やはり大きいのはコロナ禍の影響です。それまでは、幸せな時間=家の外で過ごす「レジャー」をイメージする人が一般的でした。しかし、コロナ禍で一時期ステイホームが叫ばれるようになり、人々がいわゆる「おうち時間」やウェルビーイングといった概念に目を向けるようになったんです。そこで、「よりよい家に暮らしたい」というニーズが高まり住宅ブームが起きました。
そのまま住宅ブームが続けば良かったのですが、その後訪れたのは世界的なインフレ。ウッドショックやアイアンショックなどが発生し、資材価格は高騰。同じ条件の住宅でも、これまで通りの予算では買えなくなってしまいました。
ーーどれほど住宅購入のハードルが上がっているのでしょうか?
三浦:注文住宅で言うと、大体200万円〜500万円ほど価格が上がったと言われています。たとえば、注文住宅を建てた人を対象にしたとあるアンケート調査によると、2016年に3000万円以上の予算で建てた人の割合は3割ほど。しかし、2022年になると半分ほどにまで増加しているんです。つまり、注文住宅の相場が上がってきている。
こうした背景を踏まえて、住宅価格の高騰がいつまで続くのか、もしくはこのまま高止まりした状態で定着するのか、消費者も様子を注視しているように思いますね。だから、住宅購入に踏み切れていない人が増えていて、市場の動きは鈍い。でも、建材や設備などの定価商品は一度価格が上がったら、なかなか元には戻らないでしょう。そのことを考えると、消費者はウェルビーイングを叶えつつ、コストメリットも享受できる選択肢を欲していると考えられます。
いかに“沼”にハマらないか。住宅市場に求められるタイパとは
ーーそのような背景の中で、消費者の行動や考え方はどのように変わってきているのでしょうか?
三浦:デジタル上で買い物したり、コンテンツなどを楽しんだりする消費行動が増えてきた中で、時間とは節約のしようがあるものであり、人にとって貴重なものであるという認識が増してきたように思います。つまり、費やす時間に対して得られる成果や満足感を求めるようになった。これはまさに「タイパ」を重視するようになったと言えるでしょう。
でも、大切なのは、ただ節約すればいいというものではないということ。具体的に家づくりのシーンを考えてみましょう。YouTubeの家づくり動画を倍速で見て情報収集をする。時間を節約できた分、もっと多くの情報を集めようとさらに別の動画を倍速で見る……こうした行動をしていると、どんどん“沼”にハマってしまって、結局同じ時間、もしくはそれ以上の時間を消費するだけ。何も決まらないまま時間だけが過ぎて終わってしまいます。
そもそも専門知識を持ちえない消費者が、家づくりの一つひとつを決めていくことは相当難しいと思うんですよね。情報が増えるだけで、迷いが大きくなる。だからこそ、「これは良い、これは良くない」と言い切ってくれるプロの存在を内心で欲しているんです。「断熱性能はこれくらいがベスト!」「こんな間取りは避けるべし!」といったように強く言い切ってくれる住宅系のYouTuberが人気なのも、そういった背景からでしょう。
つまり「タイパよく家づくりをする」ということは、いかに迷いをなくすかということに等しいんです。そういった意味で、規格住宅には大きな可能性がある。新建新聞社が創刊している業界誌『住宅産業大予測2023』でも、これからは自由度とコストパフォーマンスなどを兼ね備えたセミオーダー式の住宅が人気を集めていくと語っています。
ーー「規格住宅の可能性」についてもう少し詳しく教えてください。
三浦:規格住宅は、ある程度住宅会社側が設定したベースがある。その時点で選択肢を絞られているから迷わずに済みます。特にLIFE LABELやDoliveのようにのように、人気ブランドとコラボレーションして強い訴求力を持った住宅商品があれば、消費者も「こんな家に住みたい!」と選びやすくなりますよね。
三浦:私の中では、家づくりには大きく分けて2つの考え方があると考えています。ひとつは推薦主義、もうひとつは陳列主義です。推薦主義とは、まさに規格住宅のアプローチ。住宅会社側があらかじめ「こんな思想をもとに、こんな設計で、こんな家をつくりました」と提案するんです。一方、陳列主義は、注文住宅のアプローチ。「あれもこれも選べます」というスタンスで自由度が高いように見えるけれど、逆に家づくりの素人の消費者に「決める」という大きな労力を強いてしまう。つまり、迷いが生まれる、思考の手間がかかるという観点ではタイパが悪いということになります。
「それでは規格住宅には、自由度が少ないのではないか」という意見もあるかもしれません。でも、規格住宅の多くは、予想されるアレンジはオプションで用意されているケースがほとんど。ある程度決まったベースがあった上で、Aパターン・Bパターン……とプロが提案するプランが用意されていれば、迷う必要もなく、自由度も担保されます。その時点で非常にタイパがいいんです。
リードタイムを短縮。規格住宅が住宅会社のタイパも実現する
ーー消費者側だけでなく、住宅会社側にも規格住宅がもたらすタイパはあるのでしょうか?
三浦さん:非常にあると思いますね。先ほど言ったようにどれほどアレンジを許容するのかにもよると思うんですが、基本的に打ち合わせの回数や変更に伴う対応の工数はぐっと減るでしょうね。要望をヒアリングする、設計に落とし込む、工程や見積もりを算出する、提案して変更があればまたやり直す……これが注文住宅の基本的なフロー。でも、規格住宅になれば、あらかじめ選択肢が決まっているので、こうした手間はぐっと省略できます。
三浦さん:それだけではありません。マーケティングという観点からも規格住宅はタイパがいい。というのも、基本的には注文住宅って、受注までのハードルが相当高い商品だと思うんです。それは、お客様の要望ありきでつくられるため、決まったかたちがなく、商品を目で見ることができないから。一生に一度の高価な買い物で、しかも、かたちのないものを選ぶって相当ジャッジしにくいですよね。「何でもつくれる。誰でもOK」というスタンスだと、広くアプローチして、そこから確度の高いお客様をスクリーニングして、何度かコンタクトを取って……とコストもリードタイムもかかる。
一方で、規格住宅は、あらかじめ目に見える商品がある。そこで、消費者は気に入ったか、気に入らないか、ジャッジできるんですよ。しかも、住宅会社にしてみたら、最初から自分たちの思想を商品というかたちで表現して、そこに共感する消費者が訪れてくれるから、最初からセグメントができている状態。いわば“ご指名”的な側面もあるのでリードタイムが短いんです。
マーケティングも、営業も、設計も、たくさんの時間とコストを投下できるだけの体力のある企業はいいかもしれませんが、タイパという観点ではやはり規格住宅に分があると言えるでしょう。
バーチャル世界の発展とともに実現する より効率的・省力的な家づくり
ーー今後、タイパという観点で住宅業界では、どのような展開が生まれそうでしょうか?
三浦さん:これからどんどんリアルとバーチャルの境目はなくなっていくことでしょう。そんなときにメタバース空間を使って住宅商品を魅せて、消費者の期待を高めていく、というアプローチは非常に有効です。
今後、究極的には「リアルで家を確認しなくても大丈夫」という消費者も出てくるかもしれません。最終的な決断に至るには、魅力的な規格住宅商品があること、実際に設計・施工フェーズに入ったときのリアルとバーチャルとの接続をスムーズにすることがポイントになるでしょう。
また、実際に今、バーチャル展示会やオンラインルームツアーといった取り組みも増えています。消費者にとってみたら、リアルの展示場に行くよりも、バーチャル展示場の方が参加の敷居は低いし、家づくりの相談もしやすい。裏を返せば、住宅会社側の「次のアポを取る」ことのハードルはがくっと下がり、継続的にコミュニケーションが取りやすくなります。リアル展示会での集客やアンケート回答や個人情報収集といった手間を考えると随分タイパがいいと思うんです。
ーー最後に、今注目している取り組みがあれば教えてください。
三浦さん:新しいプラットフォームの可能性ですね。個社での生産性向上やコストダウンには限界があるので、ここまでお話ししてきた規格型住宅やVRを含めて住宅生産・販売のタイパ・コスパを大きく向上する業界プラットフォームの登場に期待しています。小異を残しながらでも複数の企業や住宅ネットワークなどが大同できるといいですね。もしくは、しがらみのない異業種やベンチャー企業が参入してプラットフォームを作り上げるか。住宅業界にもダイナミックな動きが必要なときだと感じています。
これからの時代を象徴する消費スタイル「タイパ」。
住宅業界においても、今後ますますこのキーワードは見逃せないものになりそうです。
引き続きTRENDYYY部では、世の中のトレンドを読み解いていきます!次回もどうぞお楽しみに。
株式会社新建新聞社 代表取締役社長 三浦祐成
株式会社新建新聞社 代表取締役社長 三浦祐成
新建新聞社代表取締役社長。新建ハウジング・リノベーションジャーナル発行人。新建ハウジング編集長を経て現職。「観察者」の視点から、住宅産業の動向、生活者の住まい・暮らしに対するニーズ・変化を読み解き、工務店の取るべき道筋を提示する。ポリシーは「変えよう!ニッポンの家づくり」。