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変わるユーザーにどう対応する?「楽しい」時間を想像させる、地域工務店の戦略

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注文住宅オンリーから規格住宅ブランド立ち上げ、ポスティングからSNS…。集客も時代に合わせて変えていく

三重県で1969年に創業した中美建設。元々は注文住宅を扱っていましたが、提案できる商品の幅を広げるため、2016年にLIFE LABELに加盟しました。

「規格住宅事業をはじめて数年。すでに実績は100棟を超えるほどになりました」と話すのは、中美建設の上村益士さん。2019年に立ち上げた自社規格住宅ブランド「alco」のマネージャーを務めています。

中美建設「alco」マネージャー 上村益士さん

「注文住宅ばかりやっていたので、正直当初は不安もありました。当時のLIFE LABELの人気商品と言えばZERO-CUBE。シンプルなキューブ型の住宅をベースに、オプションで個性を出していく、というスタイルがどれだけ市場で受け入れられるのか、すぐに飽きられてしまわないか、という懸念はありました。しかし、そんな心配をよそに、どんどん施工事例は増加。規格住宅にもちゃんとニーズがあるのだと認識しましたね」

規格住宅を扱うことで、注文住宅とは異なる角度からライフスタイルの提案ができるようになったという中美建設。商品に注目して来てくれるお客さんが増えたものの、あるタイミングで集客方法にテコ入れを図ることとなります。

「ポスティングをメインに集客を行ってきたのですが、コロナ禍でそれが難しくなってしまって。そこで注目したのがSNSでした」

こう話すのは、alcoチームで広報を担当している内田実香さん。

「コロナ禍で見学会を大々的に実施することが難しくなったことを機に、Instagramを本格的に運用するようになりました」

中美建設 「alco」広報担当 内田実香さん

「コロナ禍以前も、Instagramでは定期的に施工写真やイベント情報をアップしていたのですが、基本的にはチラシでの集客がメインで、Instagramは調べていただいた方に届けるものとして運用していました。
ただ、コロナ禍で直接お客様との接点が持てる場が少なくなる中で、直接ではなくともコミュニケーションをとれる場があると良いのではという考えからInstagramに本腰を入れていくことにしたんです。
まず取り組んだのはインスタライブ。お客様との双方向でのコミュニケーションを取った結果、コロナ禍でも集客は落ち込むことなく、ピンチを乗り越えることができました。」

初めは、フォロワーを増やすため、外注で施工事例を投稿していたというalco。今では自社で発足した広報・マーケティングチームがSNSを運用するようになりました。運用の仕方は、日々の投稿はもちろん、他社の事例を取り入れながら反応を見る、投稿にいいねをつけにいく…といった地道なもの。ですが、確実に成果が出ているといいます。

「今はリール動画ですね。工夫すれば普通に写真をアップするよりも、圧倒的にリーチ数を獲得することができるんです。alcoではルームツアーを実施して、導線を紹介したり、内観を見せたりすることで集客につなげています。」

今求められるのは、機能ではなくライフスタイル。市場の変化に対応した提案の仕方とは

2019年に創業50周年という節目を迎えた中美建設。上村さんは、長く続けてきたからこそ、ユーザーの変化を感じているといいます。

「商談中に『家』そのものの話をしなくなったんですよね。最近のお客様は、家のスペックや性能よりも、『この家に住んだらどんな楽しい時間が送れそうか』といった、暮らし方やライフスタイルへの興味関心が強いばかり。個人的にも、『家』という“ハコ”はシンプルなものでいい。そこでどんな時間を送るかの方が重要だと思っています」

機能よりもライフスタイル。そんな提案が求められる今、商談では、どんなことを意識しているのでしょうか。

「まず活用しているのはWEBサイトやSNSに溢れるライフスタイル写真です。LIFE LABELのコンテンツはかなり活用していますよ。こんなライフスタイルが送りたい、というお客様の思いを汲み取ることもできるし、こちらから提案することもできますしね。そして何より提案する自分たち自身が暮らしを楽しんでいること。そうでないと、お客様に楽しい時間を想像させるための説得力もありませんし、私たち自身も楽しくないですから。」

そういった商談スタイルを象徴するかのように、中美建設では「営業」という肩書きを「住宅アドバイザー」へと変えました。

「自分たちからぐいぐい売り込んでいくのではなく、まずはお客様の理想の暮らし方やライフスタイルに耳を傾ける。そんな気持ちを持って商談に臨もうと全社的に肩書きを変えたんです」

意識しているのは、お客様に、街に、どんな価値を与えられるのかという視点。事業形態だって柔軟に変えていく

また、2022年には雑貨や家具を扱う商業施設「Middle Earth Village」をオープン。従来の「工務店」の枠にとらわれない活動を展開しています。

「これからますます人口が減って、市場のパイは少なくなっていくでしょう。そうすると、注文住宅事業1本では時代の変化に対応できません。そうなると、リフォームやリノベーション、インテリアや家具、建築技術を活かした場づくりといったように事業を幅広く展開していく必要がある。それらの相乗効果でよりマーケットからの期待に応えられるようになると信じています」

Middle Earth Villageでは、雑貨や家具の販売だけでなく、マルシェイベントも実施しています。2022年6月に実施したイベントには、Instagramだけでの告知にも関わらず、100名以上が来場。若いカップルから子供づれのファミリーまで、幅広い層が訪れました。

「私たちが大切にしているのは『家』を売るというよりも『暮らし』や『ライフスタイル』を売るという意識。中美建設に行けば、家のことはもちろん、インテリアや家具をはじめとして暮らし全般について相談できる……。そんな存在になりたいと思っています」

さらに、上村さんは中美建設のこれからの構想を語ってくれました。

「ゆくゆくは日常を彩るグリーンの販売や忙しい日々の中でほっと一息つけるカフェの営業も実現したいですね。家を建てる瞬間だけでなく、家を建てる前や後にもお客様と接点を持つことができます。いざ家を建てるとなったとき、家を建ててからインテリアを変えたいとなったとき……そんなときに中美建設が第一想起になったらいい。お客様と『点』でつながるのではなくて、『線』でつながることを目指したいと思っています。」

地元に根ざした工務店として、さらに広い視点を持ち、自社が建てる住宅がまちに与える影響も考えているという上村さん。将来的にはどんな工務店を目指しているのでしょうか。

「住宅ってどうしてもまちに残るもの。建物がひとつ建つことによって、まちの景観は少なからず変わります。だから、どうせ変わるのならば、いい方向に変えたい。今は造成地の中で家のデザインがバラバラだったり、まちの雰囲気にマッチしない家が建ったりしていることもあるように思います。
だからこそ、これからは中美建設が造成地を丸ごと手掛けて、まちの中に、もうひとつ“ちいさなまち”をつくってもいいかもしれません。そうすれば、ライフスタイルや趣味嗜好が似た人たちが集まって、いい場所が生まれるのではないでしょうか。そして、その場所に影響された人たちが中美建設に相談するようになってまた家を建てていく……そんなサイクルが生まれたらいいなと思います」

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